取扱業務 企業法務

企業不祥事における緊急対応策
 〜第三者委員会の設置を中心に〜

近時、多くの企業の社会的信用が揺らいでいます。食材偽装、企業開示情報の虚偽記載、カルテル、報告データねつ造、反社会的勢力との接触等、起こるはずのない企業不祥事が後を絶ちません。これらの事件では、いわゆる被害者が多数に上り、否が応でも社会問題化する場合もあれば、被害範囲は小さくとも、商品・サービスの利用者・消費者が多いがために、彼らの失望・不安が企業のレピュテーションを毀損してしまうケースもあります。いずれにしても、企業のブランドが突然、あまりに容易に、低下・消滅の危機にさらされるのです。そして、企業経営に関わる方々が心胆を寒からしめるのは、これらの事件がいずれも優良企業で起きているという事実でしょう。

企業経営はリスクとともにあります。リスクは外部から侵襲してくるものばかりではありません。企業の中にこそ、業績を向上させたいプレッシャー、慣行による倫理観の鈍麻等、大きなリスクが遍在しているのです。これらリスクの把握・管理は、Enterprise Risk Managementによって、各企業において万全の備えがなされているはずです。しかし、リスクが完全にコントロールできる、当社では世間を騒がせるような不祥事は起きないと考えるのは、あまりに楽観的です。

リスク管理をしつつも、リスクが現実化したときに、どのように対処すべきか、日頃から対応策を考え準備しておく必要があります。当事務所では、長年に亘って企業法務に携わってきた知識と経験から、防止策のみならず緊急対応策が必要な局面でも、貴社のお役に立つことができます。本稿では、思いがけずリスクが現実化した場合に、貴社が具体的にとるべき対応策について、当事務所からのご提案の一端をご紹介させていただきました。ご高覧のうえ今後の対策のご参考にして頂ければ幸いです。

1 第三者委員会設置の必要性

企業に不祥事が発生した場合、早急に外部の弁護士等による第三者委員会を編成し、中立的な立場から事実関係の調査・原因の究明を行うことが肝要です。 業務プロセスを熟知し、情報がどこにあるかも把握している社内の従業員が行った方が、調査期間は短くて済むかもしれません。しかし、企業への信頼が揺らいでいるとき、ステークホルダーは内部調査を全面的に信じてはくれません。身内であるがために未だ何か隠しているのではないか、社内のヒエラルキーが調査を阻害したのではないか、という疑念を払拭できないからです。

そこで、企業と利害関係を持たない中立的な立場から、調査と原因究明を行うのが第三者委員会です。この委員会を設置すると大事件であるかのように見られてしまう、かえって風評リスクが高まるのでは、と不安視する人がいるかもしれません。しかし、第三者の調査を受けるという姿勢が、企業が信頼回復に対する強い意志を持っていることの表明となり、また自浄機能を有していることへの期待を呼んで、事態収束への近道となることを忘れてはなりません。

2 第三者委員会委員の選定

第三者委員会を構成する弁護士は、どのような者に依頼するのがよいでしょうか。 顧問弁護士は利害関係者であり、第三者委員会を組織する者としては、最適ではありません(詳しくは日本弁護士会連合会発行の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」 をご覧下さい。)。つまり、不祥事発生に直面した企業は、短期間のうちに、これまであまり関係を持ったことのない者の中から、第三者委員を選定し、その者に企業ブランドの命運の一端を預けなければならないのです。この選定は大変に重要なステップであり、次のような点に注意する必要があります。

◆中立性・高潔性・高度の専門性

第三者委員には、中立性・高潔性と、コーポレートガバナンスやコンプライアンスに関する高度の専門性が求められます。当事務所は、藤田耕三、北山元章、原田國男という高裁裁判官経験者を擁しております。特に原田は、主に刑事部において活躍してきた、いわば不祥事のプロフェッショナルで、最近ではノバルティスファーマ株式会社の慢性骨髄性白血病治療薬の医師主導臨床研究である SIGN研究に関する社外調査委員会において委員長を務めております。中西和幸は、企業防衛と役員責任とが交錯するダイナミックな企業法務を専門分野として豊富な経験を有しており、また、企業不正の調査に関する知識・ノウハウにつき日々研鑽を積んでいる公認不正検査士でもあります。市川佐知子は、公益財団法人会社役員育成機構で監事を務め、企業法務・人事管理に携わってきました。海老沼英次は、都市銀行に長年勤務した経緯から企業組織に精通しており、コーポレートガバナンス、コンプライアンスを得意分野としております。このようなリソースを活用し、当事務所では、これまでに多くの第三者委員(ないし同等の)任務を拝命し調査業務を行ってきました(ご紹介可能な事案の概要については、こちらをご覧下さい。)。

◆調査技術、報告書作成技術の習熟

第三者委員会が行う作業は、文書精査・関与者インタビュー・調査報告書作成です。当事務所では、多数の訴訟を手掛けてきた経験から、これらの業務を得意としています。文書の精査には、その文書の位置づけ、例えば作成の背景、関連資料の存在、他文書との整合性を洞察・評価する視点が必要となります。インタビューもまた、真摯な傾聴の姿勢と矛盾点への即応という技術が求められます。調査報告書の作成上、初見の読者にも理解し易い簡潔さは必須です。これらはいずれも、訴訟活動をする際に求められる技術であり、当事務所の得意とする分野です。

◆多人数による迅速な対応

第三者委員会は、短期間で膨大な調査を済ませて報告書を編纂する必要があり、一時に多数の弁護士が必要となります。当事務所には40人超の弁護士がおり、突然の調査依頼にも迅速に対応することができます。

3 企業価値への理解と独立性

第三者委員会は企業の敵ではありません。企業価値を守るという究極の目的のために、客観性の高い調査業務を遂行する企業の味方です。事後的・批判的な視点ばかりから事件を誇張し、不必要な責任追及に堕することはあってはなりません。企業価値を理解し、各ステークホルダーの利益を尊重する謙虚な姿勢を保ちつつ、独立した観点から調査を行える者を探し出す必要があります。特に、次のようなポイントに留意する必要があります。

◆従業員への配慮と協調

社内調査と、第三者委員会による調査とをどのように位置づけるかは、企業の考え方次第です。第三者委員会に調査の全てを任せ、社内では敢えて何もしない、という選択肢もあります。調査の客観性を際だたせ、公正性を最大限にアピールしたい場合に有効です。しかし、実際の作業の場面では社内チームとの協業が欠かせません。企業のステークホルダーの一角である従業員に配慮し、協調できる弁護士が求められます。

◆事案に即した柔軟な対応

社内で行った調査を、外部の独立した視点から検証させる、という選択肢もあります。正確な財務数字がいち早く必要であるなど、調査の迅速性を優先させる必要があり、事後検証になじむ性格の事件の場合に向いています。企業の置かれた現実を踏まえ、柔軟な対応ができる弁護士が求められます。

◆慎重な事実認定

第三者委員会の調査報告書は、不祥事を巡ってその後に裁判が起きた場合、証拠として決定的な意味を持ちます。報告書の中で企業に帰責性が認められれば、それを後の裁判で覆すことは困難を極めます。このような報告書の重みを理解して、十分な裏付けなく安易に問題事実の存在を認定しない、という慎重な姿勢を貫ける弁護士が求められます。

◆経営陣に対するデュープロセス

第三者委員会の調査は、視点を変えて企業の側から見れば、弁明のチャンスです。裁判になった場合に報告書が果たす役割の大きさから考えると、最後のチャンスと言っても過言ではありません。一方、企業の中には、第三者委員会の調査報告書について事実関係が異なる等の不満があるケースも見られます。そのような事態に陥らないよう、第三者委員会は、経営陣にとってのデュープロセスに配慮し、十分な弁明の機会を与えるような調査計画を立てる必要があります。また、経営陣から聴取の要請があれば、柔軟に対応すべきです。経営陣が言いたかったことが最後まで言えなかった、という事態は避けなければなりません。

4 再発防止策の策定

第三者委員会の調査報告書で不祥事の原因が特定されたら、企業はそれを除去し再発防止のための施策を考える必要があります。

このとき、再発防止策が十分なものであるか、法的観点からアドバイスを行う弁護士が役立つ場合があります。

まずは、第三者委員会の報告の中で、再発防止策を提案する場合が多いと思います。なぜなら、第三者委員会を構成した弁護士であれば、不祥事の内容、背景、原因を自ら調査し、理解しているからです。しかし、その再発防止策の実施についてのアドバイスやモニタリングまで、第三者委員会の委員に委託することはいかがでしょうか。事実究明の中立性を保持し、第三者委員会の信頼を確保したい場合には、第三者委員会の委員が当該企業から調査報告書作成後に別途報酬を受ける格好は避けた方がよいのではないでしょうか。むしろ別の弁護士に、調査報告書を踏まえつつ、事件後の建設的な再発防止策をレビューさせ、その実施についてのモニタリングおよびアドバイスを依頼するのが適当である、という考え方です。当事務所は、企業法務分野でアドバイスを行ってきた経験から、企業の内部統制、PDCAプロセスに通じています。企業の策定した再発防止策が、不祥事を起こした原因を除去するに足るものか、類似事故の発生を防止できるか、運用上の無理はないか等、実践的な側面からも、提言を行うことができます。

5 関係各署への報告・開示

第三者委員会が調査を終え、調査報告書を公表しても、企業の事件に関する情報開示はそれでは終わりません。調査報告書は、事実関係の複雑さを受けて難解・大部になりがちです。しかし、どれだけの人が100頁を超える報告書を読み解き、理解できるでしょうか。企業には、社内向け、行政庁向け、証券取引所向け、業界団体向け、公衆向け等、それぞれの読み手の視点に応じた、理解しやすい情報開示が求められています。当事務所は、訴訟遂行を経て培ってきた、初見の読み手にも分かり易い文書作成技能を通じて、貴社を援助することができます。

6 代表訴訟への備え

企業価値の低下があれば、その後に代表訴訟が提起されます。取締役の方々には企業とは別の弁護士が必要となります。取締役が自らの伝手で弁護士を調達できる場合もあるでしょうが、企業に適当な弁護士を紹介してくれるよう相談することが多いのも事実です。このとき企業は、企業と取締役の利益相反に配慮し、企業と繋がりのある弁護士を紹介することが、はばかられます。他方で、全く未知の弁護士を紹介すれば、取締役にとって無責任であるばかりか、思わぬ展開を呼んで自らが苦境に立たされる危険を冒すことにもなります。企業防衛と取締役責任の相克という非常にセンシティブな状況下で、企業の利益を理解した上で、取締役の利益を守れる弁護士が必要となります。当事務所では、多くの代表訴訟において取締役の代理人を務めた経験を有しており、相被告との協調・距離の取り方、訴訟遂行方針の企業に与える影響等、機微な問題について、柔軟な姿勢をとりつつも取締役の利益を擁護することができます。

7 関係者の責任の分析・処分

不祥事と呼ばれるものが発生した場合、調査の結果、問題がなかったとされる例はむしろ例外的です。問題を発生させた者の責任論、特に法的責任を議論するステージを避けることはできません。第三者委員会の調査報告書は原因究明はしても、関係者の責任まで論じるものではありませんから、企業が関係者の責任問題を議論するためには、別途の手当てが必要です。そして、この責任問題は、従業員の懲戒、役員の解任や損害賠償請求等、個人に大きな不利益をもたらすものですから、彼らからの反論が予想されます。企業は、その反論に再反論して凌駕し、自信を持って断固たる決断を行わなければなりません。そのためには、調査報告書を踏まえ、関係者の法的責任を分析の上、適当な処分・処遇を提言できる弁護士が必要です。当事務所では、取締役の責任の有無について幾多の分析依頼を受け、人事労務問題としての懲戒事案を数多く取り扱ってきました。これらの経験を生かし、関係者の法的責任の分析と、企業がとるべき処分・処遇について妥当性を含めたアドバイスを行うことができます。